大阪地方裁判所 平成2年(ワ)5514号 判決 1991年10月29日
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 原告らの請求
一 被告は原告らに対し、別紙物件目録記載の建物を収去し、別紙物件目録記載の土地を明渡せ。
二 被告は、原告らに対し、平成元年一一月一日以降平成二年三月一日まで月額金一二万円の割合による金員を、平成二年三月二日以降右明渡済みに至るまで月額金五〇万円の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 請求原因
1 原告らの父である矢森肇は、昭和四〇年頃、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を、被告の父である土蔵善助に賃貸し、善助は右土地上に別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有していた。
矢森肇は、昭和四二年一〇月三一日に死去したため、原告ら四名が本件土地について各持分の四分の一ずつを相続し、かつ善助に対する賃貸人の地位をも相続した。
その後、善助が死去し、被告が善助の賃借人と本件建物の所有者たる地位をそれぞれ相続した。
2 右土地の賃料は左記のとおり推移した。
記
昭和四〇年六月 七六〇〇円
同 四四年四月 一万円
同 四六年四月 一万五二五二円
同 四七年一月 一万六〇〇〇円
同 五〇年五月 二万円
同 五五年八月 六万円
3 最終の賃料の値上げ以降一〇年近くが経過し、この間に固定資産税をはじめとして諸物価が上昇し、わけても土地が高騰したこともあり、賃料額と公租公課の額とが同額になったため、原告らは、本件土地の賃料額を平成元年一一月一日以降月額一二万円に増額することにし、その旨の通知書を被告に送付し、右通知書は平成元年一〇月一八日に被告に到達した。
4 しかるに、被告は右賃料増額の効果を争い、右増額に応じず、従前賃料月額六万円を支払い続けている。
5 そこで、原告らは、通告書到達後一週間以内に増額賃料の支払なき場合は、右期間の経過をもって賃貸借契約を解除する旨の通知書を被告に送付し、右通告書は平成二年二月二二日に被告に到達した。
6 よって、原告らは、被告に対し、賃貸借の終了に基づき、本件建物の収去及び土地明渡と平成元年一一月一日から平成二年三月一日までは毎月一二万円の割合の賃料の支払及び平成二年三月二日から右明渡済みに至るまで毎月五〇万円の割合の新規賃料相当額の遅延損害金の支払を求める。
二 被告の主張
1 本件は、昭和四〇年に善助から肇に七一四万円もの多額の権利金が支払われた結果、土地の月額賃料が低い評価を受けてきた。
その為、原告らは、二度にわたって賃料増額の訴訟を行ったが、公租公課に近い賃料額が相当であるとされて、和解したため、原告らは、本件訴訟提起に至るまで賃料値上を相当とする事情変更を見出しえなかったのである。
被告は、昭和六三年度の公租公課及び近隣の他の賃借人の賃料を考慮し、従前の裁判上の和解に準じて、原告らの主張する値上額との妥協点を求めて協議したい旨申し入れており、原告らからの賃料増額請求に一切応じないなどという頑な態度をとったことは一度もない。
原告が本件訴訟提起に至った背景として、政府の土地対策が有効になされない結果、土地が株式や金等と同様、投機の対象とされ、真の有効需要にもとづく自然な地価上昇に比して異常極まりない地価高騰を招いている事実を無視しえない。
その結果、都市の中心部に住む勤労世帯が新たに土地を取得してマイホームを持つことを不可能とし、本件のように固定資産税等の公租公課の急騰を招いて、本件賃貸借関係において、原告らから従前の和解の経過に準じて、賃料を協議によって決定しようとする心理的余裕を失わせている。
2 従って、本件において、借地法一二条の適用を排除するのを相当とするような事由は存在しないので、原告らの契約解除の主張は失当である。
三 争いがない事実及び主要な争点
(争いがない事実)
請求原因1、2の各事実、同3のうち原告ら主張の通知書送付の事実、同4、5の各事実、以上については争いがない。
(主要な争点)
原告らの本件賃料値上げの意思表示に対し、被告が従前賃料一か月六万円を支払い続けていることは、借地法一二条二項の「相当と認める地代」の支払といえるか。
第三 当裁判所の判断(省略)
(別紙)
物件目録
一 土地 大阪市北区豊崎六丁目弐番の参
宅地 四〇〇・〇参平方メートル
但し、右宅地のうち、弐五壱・六五平方メートル
(別紙図面赤線範囲内の土地)
二 建物 大阪市北区豊崎六丁目弐番地の参
家屋番号 弐番参の壱
木造亜鉛メッキ鋼板葺弐階建居宅
壱階 七八・弐七平方メートル
弐階 六八・四四平方メートル
<省略>